ほーちゃんの趣味手帖

主にゲームについて語ります。ジャンルは雑多。プレイ速度は亀

【遙か2】花梨SS(泉水ver.)

※こちらは、遙か2本編で語られていない花梨の心情を、想像・捏造した二次創作となります※

 

 

鈴虫 ~泉水 大切な恋~

 

 ころりと死んだ鈴虫を、館の庭にそっと埋めた。
 神子として認められ、ひとつ、心細さの消えた秋の暮れ。物寂しい夜を紛らすように、花梨の枕辺で歌いつづけていた鈴虫が、静かに動かなくなった。
 力いっぱい、首を横に振る。大事な思い出だけど、今は思い出しちゃだめ。
 冷たい空気が頬を切る。吐息が風に飲まれて凍る。うっすらと雪をまぶした嵐山を遠くに見据え、固く組み合わせた手を胸に置いて、花梨は強く自分に言い聞かせる。泉水さんは大丈夫。きっと、ぜったい大丈夫だけど――急がなきゃ。

 朝、柔らかな冬の日差しが降り注ぐ紫姫の館で、泉水からの文を受け取った。乾いた墨の匂いに混じって、ふんわりとかぎ慣れた薫物が香る。流麗な文字は美しく、難解で、花梨には読めない。代わりに目を通した紫姫が、すうっと蒼ざめた。
「浮いたままで消えてしまう、水の泡のようになってしまいたい。なんの希望もない、この私ですから」
 はかない歌を読み上げる、紫姫の声の向こうに、震える泉水の声が聞こえた気がして、背筋がぞわっと逆立った。

 まっさらな雪を踏みしめ、泉水の姿を探しながら、京に降り立ったばかりの頃を思い出す。見知らぬ土地に一人の寂しさが、ふと募って泣きたくなる夜は、いつも傍らに何かがあった。
 色とりどりの絵巻物。心づくしの秋の花籠。
 りぃん、りぃんと鳴く鈴虫。
 泣かないで、と慰めてくれるような、泣いてもいいよ、と労わってくれるような。
 泉水のささやかな親切が、その心の優しさが、形になった贈り物。それはいつでも、挫けそうになる花梨の心を支えてくれた。
 ありがとうと伝えたいのに、泉水はいつも、その言葉から目を背けてしまう。
 ずっと行動を共にしてきて、花梨には、わかってきたことがある。
 泉水さんは、信じることができないんだ。自分が、誰かの役に立てる存在なんだと。
 大切な存在なんだと。
 ――なんの希望もない、この私ですから。
 そんな悲しいことを言わないで。この右も左もわからない世界で、よく知りもしない私のことを思いやってくれた人。あなたは私を優しいと言ってくれるけど、本当に優しいのはあなただよ。
 籠の中で死んでいた鈴虫。触れるだけで壊れそうなその体。
 力いっぱい、首を振る。それだけはだめ、ぜったいにだめ。
 あんな思いをさせないように、泉水さんが独りぼっちにならないように――急がなきゃ。

 雪化粧の京の市街を後にして、うら寂れた道を花梨は歩く。靴を雪で汚しながら、寒風に頬を打たれながら。
 泉水さんを見つけて、思いとどまらせることができたら、今度こそちゃんと伝えよう。
 あなたは私に必要な存在なんだ、と。
 信じてもらえるまで、何度でも。

 

 

遺書のエピソードは、花梨のと言うか、紫姫の早とちりっぷりがかわいい。

泉水さんからの贈り物、初めてプレイしたときは、深く考えずに「気持ちだけ」を選んでしまい、後からイベント内容を知って歯噛みしました……

 

 

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