【遙か2】花梨SS(勝真ver.)
※こちらは、遙か2本編で語られていない花梨の心情を、想像・捏造した二次創作となります※
鼓動 ~勝真 大切な恋~
勝真さんの腕の中で、一瞬、真っ赤に燃え盛る空が見えた。
しっとりと雨に濡れた体が冷えて、そのくせ、ぴったりとくっついた背中だけが生温かい。恥ずかしくて、居心地が悪くて、泥で汚れた膝小僧をひたすら見つめていた。
「後ろを向くな」なんて言われなくても、はじめからぴくりとも動けない。
小さなくしゃみが飛び出して、体に回された勝真の腕に力がこもる。ますますうつむいた花梨の様子を見て、濡れそぼったススキの原が、さわさわさわと笑い声を立てた。
今、私の顔は赤いだろうか。耳まで赤く染まったら、勝真さんに見られてしまう。
勝真の腕の中は、狭くて、熱くて、心臓に悪い。どこどこどこと、鼓動が脈打って耳朶を打つ。どこどこどこ、どこどこどこ。不規則な音に追い立てられて、花梨は思わず目を閉じた。
ざあざあと、降り止むことのない雨の音。いつもなら意識したこともない、勝真の吐息の熱っぽさ。足元から立ちのぼる冷たい湿気と、むせるようなススキの匂い。
――その向こうで、人の声がする。
ひりつくような熱風が、どっと頬に吹きつけた。
叫んでいる。泣いている。限りある身を振りしぼり、喉の奥からほとばしる人々の悲鳴。虚空を走り、大気を震わせ、怨霊の断末魔となって空へと消えていく。
もうもうと立ち込める煙の向こうで、禍々しく燃え盛る紅蓮の空へ。
ここはどこ? 今にも崩れ落ちそうな建物の狭間で、金縛りに遭ったように身動きが取れない。息をするにもわずかな空間。このままこうして、死ぬんだろうか。
さわさわさわ。ススキの笑い声に混ざって、ひゅうひゅうと風が吹く。遠くで、逃げ惑う人々の声がする。ごうごうと巻き上がる炎が唸る。
ざあざあと、すべてを洗い流す雨音の中で、泥と涙でぐちゃぐちゃに汚れた顔を、炎の熱気に焼かれる少年の姿が見えた。
花梨は、ぱっと目を開けた。さっきと変わらない、じっとりと熱をはらんだ腕の中。
今、瞳に映った光景。その場に息づく全てのものたちを呑み、焼き尽くす大火の原。
気のせいだろうか。――きっと違う。狭くて、熱くて、暗い場所。死の足音が聞こえるあの空間で、勝真さんは見たんだ。まじりけのない恐怖と、絶望を。
膝をしっかりと抱きかかえ、ほんの少しだけ、背中を後ろに預けてみる。どこどこどこと、うるさいくらいの鼓動が、触れた部分から伝わってきた。
勝真さんは、生きている。このせわしない音が、その証。
無性に顔を見たくって、けれど「後ろを向くな」と言われているから、しずくの伝う膝小僧を見つめたまま、背中から伝わる重みを感じていた。
その熱を、生きる力に溢れた、でもちょっとだけ気恥ずかしい熱を、感じていた。
このイベントスチルの、ガチガチに緊張しちゃって膝ばっかり見てる花梨が好きで、試しに書いてみたんだけど恥ずかしかった……(わたしが)
勝真さんが登場すると、妙に恋愛SLGっぽさが増すのって気のせいですかね?
〈花梨SSシリーズ〉 こちらもよろしくお願いします!
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