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ほーちゃんの趣味手帖

主にゲームについて語ります。二次創作あり。苦手な方はご注意ください

【遙か2】習作SS~モブたちの八葉語り~

こちらは、遙か2の八葉たちを、いろんな形で描写した習作集となります。

元々は、作文の練習のために書いたもので、二点の目標が設けてあります。

・個人の名前は出さない
・髪色、衣服などの記号的な描写は極力控える

まぁ、設けただけで割りと破っちゃってるんですけど

恋愛描写もなく、ただ名もなきモブたちが八葉について語っているだけの、色気のない小品集となっておりますが、読んでいただければ幸いです。

 

 

一、

 鋭い目をした男だ。息を詰め、自在に気配を消し、その気になったら情など棄てて、人の命を斬り捨てることのできる男。それを生業にしているのだと、一目でわかるような男。
 長身である。鋼の身体は、藍の上着に包まれて見えぬ。殺気はない。この男は、殺気を猫の爪のように自在に出し入れできるのだろう。今、彼の表情は無だ。構えず、動じず、ただその場に座している。
 見る者が見れば、この男の表情が、少し、奇妙すぎるくらいの無だと気づくかもしれない。己を己で殺している男。その瞳の内を覗いても、彼の意思はわからない。
 だが、この男の瞳の、更に奥を覗くことができた人間は、きっと悟るだろう。
 そこにあるのは、揺るがぬ意志。何が何でも己を殺し、ひたすら主君に従うのみと決めた意志。己を恃みにしないという意志。
 肉体よりも更に強靭な心で、ばねのようにしなやかな己の生命の躍動を、圧して、殺して生きてきた男なのだと、わかるだろう。

 

二、

 平家の若君の話をしようかね。
 いんや、長男の方じゃアない。次男坊、そう、気むずかし屋で通っている若様の話さ。
 おや、お前も、あいつのことは苦手かね? そういうふうに言う者は、あいつがもっと小っちゃい頃から、そりゃあ多かったんだよ。
 あいつのことはわからない、私たちとは違う世界の人間だってね。
 たまぁに、そうやって生まれつくモンがいるのさ。貴族に生まれても、馴染めない。ガキの頃は、市井の腕白坊主どもと遊び回っていたときもあったようだがね。あの年になったら、そういうわけにゃいかないんだろう。
 嫁さんも取らず、ただ黙々と、自分の木っ端仕事を続けてる。噂じゃ、文官の父君や兄君とも不仲だと聞くよ。常に弓を背負っているが、ありゃ何のつもりかね? 本人は、いっそ武士にでもなりたかったのかもしれないね。
 そう難しい顔をしなさんな。あれはあれで、相当に信頼の置ける男さ。ああいう輩は扱いにくいがね、一度懐に入ったモンはどこまでも一本大事にする、そういう気性なんだと見てとれるじゃないか。
 まぁ、今は、そんな相手は見つかっていないようだがね。その日が来れば、お前にだってきっとわかるさ。

 

三、

 見えるかい? 僧兵装束の若者たちが並んでいるね。その一番右端の、いや、違った右から二番目の、そうだ! あの不貞腐れたような顔をしているのが、お探しの少年さ。ふむ、何ぞ面白くないことでもあったのかな。あれは、なかなかに激しい気性でね――
 おっと、御坊に何やら怒鳴っているね。やっぱり、気に喰わないことがあったんだろう。いやいや、気にしなさんな。あれは素直な奴だから、すぐに己のしたことがわかって、しょげかえるに決まっている。ふふ、ほらね。
 いつもそうなんだ、あの子は。私らは再三注意しているんだが、なかなか直らない。心静かに御仏にお仕えするには、まだ大分修行が必要そうだね。
 ところでお兄さん、あの子に何の用があったんだい? そう、行き倒れたところをねぇ――それはまた、あの子らしいことだね。
 そういうことなら、修行が終わったら、是非、あの子に会って行っておくんなさい。ここで夕暮れまで待てば、嫌でも会えるよ。また、どっかの行き場のない子の手でも引いて、バタバタと駆け込んでくるんだろうからさ。

 

四、

 わたしがまだ、ほんの小娘だった頃の話。
 菊の香りがぷうんとする貴族様に、助けてもらったことがあるのよ。
 そのとき、わたしは足を捻ってしまって、どうも上手に歩けなかった。でも、腰を痛めたお父ちゃんの代わりに、どうしてもお品を届けなくっちゃいけなかったの。帝のおわす大内裏の入口できょろきょろしていたら、どんと人にぶつかってしまってね。尻餅をついたわたしは、犬でも相手にするみたいに蹴飛ばされて、人通りの隅っこで、めそめそと泣いていた。
 そうしたら、その人が手を差し伸べてくれたのよ。まるでお日様みたいな、ふわっとあったかい影が差してさ。
 あのとき、わたしはこわくって、咄嗟に手を取ることができなかった。真っ白くって、柔らかそうで、一度、貴族の家に奉公していた頃に見かけた、舶来の砂糖菓子のような手だったよ。
 そう、砂糖菓子のような人だった。わたしたちのような者には決して手の届かない――優しくて、大層甘やかな味がするんだろうと想像させるばかりに、残酷な。
 わたしが手を取らないので、その人は困ったような顔をして、どこかの貴族へのお遣いですか、と聞いてくれた。そういう顔をすると、途端に年相応に見えたっけ。わたしとあんまり年が変わらないんだって気づいたのも、そのときだった。
 わたしからお品を受け取って、確かに取り次ぎますと仰って、その人はふんわりと行ってしまった。その後、いかつい顔をした武士たちがぞろぞろとやってきて、苦虫を嚙み潰したような顔で、わたしのことを家まで送ってくれたの。
 わたし、しばらくそのときのことを考えたわ。雲の上のお人。菊の香りのするお人。一体、どんな生活をしているんだろうってね。
 嫌だわ、やきもち妬かないで。言ったでしょう、ほんの小娘の頃の話よ。あの貴族様だって、わたしのことなんか忘れているでしょう。
 でもね、たまに思うの。手の届かない人を想って、長く、眠れない夜を過ごす。あの人もやっぱり、そんな経験をしたことがあるのかしら。例え、あんな恵まれたお人でも。そうじゃなきゃ不公平だわって思うわたしは、意地悪なのかしら――ってね。

 

五、

 まぁ、あの子のことが聞きたいの? 構わないけど、どうして人って、こう過去のことを蒸し返そうとするのかしら。ねぇ、話してあげてもいいけど、絶対にあの人の前では言っちゃだめよ。この話を持ち出すと、今でもぐずぐず泣いてお酒を飲むの。
 家族ってね、ときに死に別れるよりも辛いことってあるのねぇ。
 賢い子だったのよ。あたしの話も、専門分野じゃなくたって、何だって興味を持って聞いてくれて。飲み込みが早いだけじゃなくって、思いもかけない意見を言ったりしてね、それで、あたしたちじゃ気づけなかった新しい知見がぱぁっと開けることもあったっけ。
 学者なら誰でも、あの子と話すのは最高の喜びだったと思うけど、でも、どうなのかしら。中には、複雑な気持ちになった人もいたでしょうね。そのくらい、特別に頭のいい子だったから。その代わり、相手の密かな引け目なんかには気づかなくって、いつも自信に満ちていて――だから、本人にそんな気はなくても、曇った目で見れば、自分の賢さを鼻にかけているように見えたかもしれないわねぇ。
 と言っても、十五歳よ。年相応の若さよね。自分が正しいと思ったことを真っ直ぐ貫いて、明るい未来を見つめる目をしてた。理想の世の中を実現できると、自分にはその力があると、信じて疑わない若者の目を。
 だからかしら。あんなに早く、神様にとられてしまったのは。
 この世で生きるには、あまりにも曇りない目をしすぎていたから。
 あたしだってね、実の弟のように思っていたのよ。実際、そうなるかもしれなかったのよ。でも、今更そんなこと言ったって仕方がないわね?
 過ぎたことは過ぎたことですもの。あの子はもう、帰ってこないわ。
 そうでも考えないと、やりきれないじゃない。ねぇ?

 

六、

 艶男だったよ。若くはない。だが、重ねてきた年に、謎という名の帳を下ろして、ふんわりと秘密の薫りを身に纏っている。それが己の魅力になることを、よく理解している御仁でね。とんだ食わせ者だ、と思ったのを覚えている。
 いつも品のいい薫物を焚いていたから、風流人なのだろう。その向こうに、遙かな潮騒の香りを感じ取れるのは、京の外を知っている人間だけだろう。同郷の者ならば、そこに懐かしい、どこまでも広大な海の景色を見て取るに違いない。
 私が、あの男と話してみる気になったのも、元はと言えば、その故郷の幻想に、泣きたくなるような郷愁を覚えたからだった。
 言葉遣いは柔らかいが、ところどころに皮肉が混じる。己が危険な人物であることも匂わせる。賢いが、決して優しい男ではない。そのくせ、女にはよくもてる。詰まらない話だ。そうだ、私は結局、あまり彼を好きにはなれなかった。散々、からかわれたのでね。
 まぁ、私も若かったしね。今だって、彼に勝てるとは思えないが。
 ただ、一つだけ、私は彼の知らない、彼自身のことを知っているのだよ。この先も、決して本人に言うことはないが、袖振り合うも他生の縁だ、君にだけは教えてあげよう。
 あの男はね、あれで好奇心が強いのだ。人というものが好きなのだ。人生は孤独だと嘯きながら、私という人間を面白がり、私との会話を楽しんでいた。
 私は考える。あのとき、あの男は何故、京に留まっていたのだろうと。
 そして答える。あの京に生きる人々が、もしくはその中の誰かが、あの男をどうしようもなく惹きつけていたのだろうと。
 あの男の好奇心を、人をからかうのが好きな悪戯っぽい心を掴んで離さない何かが、あのときの京にはあったのだろうと。

 

 

玄武二人の分は、クオリティが低かったので自主的にボツにしました。

平家とか、僧兵装束とか書いちゃってるけど気にしない!(気にしろ)

髪色など、目立つ記号的部分の描写を控えるのは、実は普段から意図的にやっていることだったりします。そういう描写をしてしまうと、表現の奥行きが薄くなってしまう気がして。その限りではない作品もたくさん読むんですが、わたしがやるとどうしてもダメなので、ちょっとしたこだわりとなっています。