ほーちゃんの趣味手帖

主にゲームについて語ります。ジャンルは雑多。プレイ速度は亀

【遙か2】バレンタインSS~勝真編~

プロローグをお読みでない方は、先にこちら(【遙か2】バレンタインSS~花梨編~ - ほーちゃんの趣味手帖)をご覧ください。

 

 

 ぽんとチョコレートを口に放り込み、開口一番、勝真は言った。
「苦いな」
 あれっと花梨は思った。溶かしたのは、ごく普通のミルクチョコレートのはずである。何かの分量を間違えたのだろうか。
 作っている間はずっと、今この瞬間を想像するのに忙しくて、肝心な手元がお留守になることが多々あった。やらかしがあっても不思議はない。
「けど、甘い。変な食べ物だな」
 花梨は、やってしまったかもしれない失敗の数々を脇に避け、憤慨した。
「そんな言い方はないんじゃないですか?」
「この世界の食べ物は、変なのばっかりだな」
 言いながら、勝真は、もぐもぐと口を動かすのに忙しい。これで意外と、新しい世界の生活を満喫しているのである。京の外を見てみたいと言っていた言葉に、誇張はなかったようだ。初めての食べ物に夢中になっている勝真に、花梨はちょっと物申したくなった。
「あの、こっちの世界でのバレンタインは特別なんですよ」
「ああ、知ってる」
「本当ですか?」
「お菓子会社の経営戦略なんだろ」
 花梨は、思わず怒るのを忘れた。
「そんなこと、どこで聞いたんですか?」
「バイト先の親父が教えてくれた」
 ご馳走様、とあっさり言って、包みを粗雑に懐にしまう。ぺろりと舐めたくちびるには、チョコレートの欠片も残っていない。意外と器用に食べるんですねぇと言いかけて、花梨は重要なことを思い出した。
 私は、今、怒っているんだ!
 今更な気もしたが、こんなにも楽しみにしていたバレンタインを、ざっくりと一蹴された傷は深い。はずである。――あんまり怒りは湧かないけれど、それはそれとして。
 花梨は、勝真に背中を向けた。見えていないのを承知で、膨れっ面もしてみた。今更だなぁと勝真が笑って、そして――花梨の背中に、どんっと衝撃が走った。
「ありがとう。お前の気持ち、嬉しかった」
 今日は、もう少し一緒に過ごすか。特別な日だもんな。
 かっかと燃える耳に、囁きだけが聞こえた。回された腕に指をかけて、こくりと小さく頷くと、お前ってほんとに素直だよなと、勝真があっけらかんとまた笑った。

 

 

花梨SSシリーズのときも言いましたが、勝真さんを書くのは恥ずかしい!!

 

 

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