ほーちゃんの趣味手帖

主にゲームについて語ります。ジャンルは雑多。プレイ速度は亀

【遙か2】バレンタインSS~幸鷹編~

プロローグをお読みでない方は、先にこちら(【遙か2】バレンタインSS~花梨編~ - ほーちゃんの趣味手帖)をご覧ください。

 

 

 どうしてもこの日に会いたいという花梨のわがままを、幸鷹は快く受け入れてくれた。
「構いませんよ。こちらでは、特別な日でしたね」
 花梨は、ほっと安堵のため息を吐いた。
 もう随分と長い間、電話越しにしか声を聞いていない。ずっと一緒にいられると思っていた彼は、帰ってきた途端、歓喜に湧く家族たちと、恰好のネタに奮い立つマスコミに囲まれて、あっという間に遠くへ行ってしまった。
「いろいろと問題を片付けたら、二人で今後のことをゆっくりご相談しましょう」
 守れない約束をする人ではないから、信じて待っていればいいとは思う。でも、会えないのは辛くて、寂しくて、やっぱり不安だ。毎日のように、そわそわと着信履歴を確認しては、肩を落とすのにも疲れてしまう。
 今日は、今までの分を取り戻そう。できることなら、幸鷹さんにいっぱい甘えたい。
 頭の中が、楽しい想像でぱんぱんに膨らむ。授業中についついにやけて、先生にぴしりと注意されても、花梨の幸せは曇ることがなかった。
 約束の時間は、午後の五時(電車を逃した場合、到着するのは三分を過ぎてしまいますと、幸鷹は丁寧に断った)。待ち合わせ場所は、駅前の時計塔(北口を出てすぐ目に入る位置に立っていましょうと、幸鷹は丁寧に指定した)。街灯の点る広場にダッシュで駆け込むと、ぱりっとしたスーツの上からダークグレーのコートを羽織り、腕時計を気にしている懐かしい人影が見えた。
「幸鷹さん!」
 顔を上げた幸鷹は、花梨の姿を認め、眩しそうに目を細めた。が、すぐに真顔に戻る。
「花梨さん、ちゃんと遅れるときは連絡してください。心配しましたよ」
 花梨も真顔でごめんなさいと謝ってから、えへへと頬を緩めた。
 幸鷹さんは、やっぱりかっこいい。
 こんな素敵な人の彼女になって、チョコレートを贈れるなんて幸せだ。
「なかなか、時間が取れなくてすみません。八年間も失踪していたのですから、雑事が降りかかることは覚悟していたつもりでしたが、まさかこれほどとは」
「やっぱり、忙しいままですか」
「今年度いっぱいは、恐らく状況は変わらないでしょうね。これからの私の身の振り方も決めなければいけませんし」
 すみません、寂しい思いをさせていますねと謝られ、花梨は慌てて首を横に振った。
「疲れてるんですもの、無理しないでください。そうだ、私、肩揉みましょうか」
 えっ、と幸鷹が固まった。そうしましょうそうしましょう、と花梨は上機嫌で、駅周辺の地図を広げる。そうと決まったら、しっかりと腰を落ち着けられる場所で、幸鷹さんに心ゆくまで疲れを癒してもらいたい。
「レストラン『ラビリンス』、喫茶『姫胡桃』――わ、ここ美味しそう。どこに行きましょう。何が食べたいですか?」
 幸鷹は答えない。朱を刷いたような顔色になって、落ち着かない様子で、しきりに眼鏡を拭いている。
 今日は、今までの分を取り戻そう。幸鷹さんに、いっぱい甘えてもらうんだ!
 うきうきと食事処を吟味する花梨の頭からは、いつしか、この日までの寂しさも、拗ねたような気持ちも、すっかりと消えていた。

 

 

ここまで書いて気づいたのは、チョコレートを渡す段まで行っていないキャラがこれで二人目だと言うこと。これは果たして、バレンタインSSと呼べるのか……

ちょっと花梨ちゃんを突っ走らせすぎちゃったかもしれない、と反省中。

ふざけた小ネタを仕込んだことも、反省中。

 

 

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