ほーちゃんの趣味手帖

主にゲームについて語ります。ジャンルは雑多。プレイ速度は亀

【遙か2】バレンタインSS~翡翠編~

プロローグをお読みでない方は、先にこちら(【遙か2】バレンタインSS~花梨編~ - ほーちゃんの趣味手帖)をご覧ください。

 

 

 校門を出て、花梨は大きく息を吸い込んだ。
(今日は、翡翠さんに会えますように)
 念を入れて願掛けし、「よしっ」と気合を入れて歩き出す。花梨の経験則では、翡翠に会うには、とにかく町をぶらりと歩くのに限る。そうすれば、翡翠はぶらりと現れる。
 たっぷりとハートをあしらった、真紅と焦げ茶のフラッグがはためく商店街は、バレンタイン当日である今日も、浮き足立つ女の子たちで華やいでいた。
翡翠さん、どこにいるのかなぁ)
 そもそも、彼が今どこに住んでいるのか、花梨は知らない。複数の住処を転々としているらしく、どちらにせよ、花梨を招くつもりはないと言う。一度だけ、行ってみたいとねだったことがあったのだが、
「まだ早いよ、花梨」
 余裕の笑みで、あっさりとはぐらかされてしまった。悔しいような気もするけれど、こういうときの翡翠は何が何でも口を割らないと、これも経験則で知っている。
(私、ちゃんと翡翠さんの特別になれているんだろうか)
 一瞬、頭を不安が過ぎる。だからこそ、チョコレートくらいはちゃんと渡したい。
 気持ちを改め、商店街をもう一往復しようとしたとき、ひゅっと突然腕を掴まれた。声を上げようとした瞬間、今度は、冷たい大きな手ががばりと口に覆いかぶさる。その匂いをかいで、花梨は体の力を抜いた。よかった、ちゃんと見つけてくれた。
「不用心だね、花梨。こんなにあっさり、男に攫われるようではいけないよ」
「私、翡翠さん以外には攫われません」
 そう言い返すと、はははは、さすがは私の姫君だと豪快に笑う。解放されて、緊張した面持ちで向き直った花梨を見て、おや、と翡翠は眉を上げた。
「同じ場所をうろうろしているから、私に用事があるのかと思ったが、当たりかな」
 歩きながら話そうか、と促され、大人しく翡翠の隣に並ぶ。本当は、もっと落ち着ける場所で会いたかったけれど、翡翠は何故か、人気のない場所を避けている節がある。花梨と二人きりになるのを避けている――ようにも見えるが、そうは思いたくないというのが花梨の本音だ。
「あのですね、今日はこっちの世界では特別な日なんです」
「ふうん」
「バレンタインって言って、えっと、恋人同士のお祭りって言うか」
「恋人同士、ね」
「女の子が、好きな男の人にチョコレートをあげるんです。あの、チョコって言うのは」
「花梨」
 名前を呼ばれて、口をつぐんだ。ちらりと隣を見上げると、いつもうっすらと笑みを含んでいる翡翠の瞳が、このときだけは表情を消して、真っ直ぐ前を見据えている。思わず見惚れた花梨の手に、ひんやりとした固い手が重なったかと思うと、小さな紙片を握らせて離れていった。
 花梨は、慌てて手の中に目を落とした。見事な手筋で書かれた、漢字と数字の羅列。
「私の住所だ。何かあったら、訪ねてきなさい」
 どさっと無様な音を立てて、通学鞄が転がった。素早くそれを拾い上げた翡翠は、硬直したままの花梨に、いつもの皮肉めいた、悪戯っぽい声で言った。
「さぁ、私に渡したいものがあったんだろう、可愛い人?」
 君の気持ちを、私に見せてくれまいか。
 花梨は、さっと通学鞄を奪い取り、ガサゴソと中をまさぐって、入念にラッピングしたチョコレートの包みを取り出した。
 心臓がばくばくと、うるさいくらいに鳴っていた。

 

 

翡翠さんの危ない魅力を、花梨ちゃんの健全な魅力と、どう折り合いをつけて書くか……

難しかったです。ちゃんと恋愛ED後になってますかね??

 

 

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