【遙か2】バレンタインSS~泰継編~
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正直なところ、泰継の甘い言葉や、よくできた彼氏としての反応は、花梨の期待の外だった。だからこそ、大切な人に贈るんですと説明して、包みを手に押しつけたとき、泰継の顔が嬉しそうにほころんだのを見て、花梨の心はほとんど満たされた。
ラッピングには頓着せずにさっさと開き、これは食べ物だなと確認して、口の中に入れて無表情で食む。花梨は、そわそわと落ち着かない気持ちでその様子を見守った。
呑み込んで、しばらくした後、泰継は考え考え言った。
「神子の味がする」
花梨は思わず、泰継の顔をまじまじと見つめた。泰継は照れもせず、その瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
「神子は食すものではない。しかし、それ以外によい表現がわからない」
神子の温かさが、心に染みる味がする。
泰継の言葉を、花梨はしっかりと胸に刻み込んだ。嬉しい。これ以上ない、バレンタインの贈り物をもらった。
「そう言ってもらえてよかったです」
満ち足りた笑顔を浮かべる花梨に、泰継もふっと口元を和らげる。が、すぐにすいと眉を顰め、瞳を翳らせて言った。
「神子は、私の大切な人だ。だが、私は神子に何も用意しておらぬ」
「えっ、それはいいんですよ」
そもそもこのイベントは女の子が、と言いかけたところで、花梨は急いで口をつぐんだ。
もしかして、もしかすると。
これってとっても、チャンスなのでは。
「それじゃ、あの、私のお願い一つだけ聞いてくれますか?」
バレンタインのプレゼントとして。
「私のこと、花梨って呼んでみてほしいんです。名前で」
泰継は、瞬きもせずに花梨を見つめた。
「わからぬ。それがどうして、神子への贈り物になる?」
花梨は考えた。泰継の疑問は、いつも真っ直ぐで真っ当だ。だからこそ、その純粋な問いを、真正面から受け止められる答えを探さなくちゃいけない。
眉根を寄せて考えている花梨を、泰継の両目がじっと見つめる。
しばらくして、やっと花梨は、これだと思う答えを見つけた。
「特別な人に呼ばれる名前は、他よりちょっと特別なんです」
私は、その特別が欲しいんです。
泰継の白い面に、はっきりと理解の色が差した。
「なるほど。確かに、神子の口からこぼれる私の名は、私には常に特別だ」
そういうことだな、花梨。
淡々と呼ばれた名前が、花梨の耳に、甘やかに響いた。
はい、泰継さん。
互いの名前を分かち合い、もう一度視線を合わせた二人は、どちらからともなく、ふんわりと幸せな笑みをこぼした。
スペシャルサンクス、リズ先生。
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