ほーちゃんの趣味手帖

主にゲームについて語ります。ジャンルは雑多。プレイ速度は亀

【遙か2】バレンタインSS~彰紋編~

プロローグをお読みでない方は、先にこちら(【遙か2】バレンタインSS~花梨編~ - ほーちゃんの趣味手帖)をご覧ください。

 

 

 校門で男の子が待ってるよと言われて、散々冷やかされながら教室を出た。弾むように階段を駆け下り、飛び跳ねるように靴を履き、爪先をとんとん地面に打ちつけながら、息を切らして玄関を飛び出す。
「彰紋くん!」
 紅と薄桃の色目が華やかな花束を、両手いっぱいに抱えた少年が、花に負けないような眩しい笑顔で、花梨の方を振り返った。
「花梨さん! よかった、ちゃんとお会いできましたね」
 通りすがりと思しき主婦に、僕はこれでと会釈して、花梨と並んで歩き出す。花梨を待っている間、話し相手を務めていたようだ。こちらの世界に来てからわかったことだが、彰紋は、道行く人との会話がめっぽう好きな性質である。僕と自然に話してくださる方がこんなにいることが新鮮なんですと、来たばかりの頃、言っていた。
「ごめんね、待たせちゃったよね」
「いえ、あなたを待つのはいつも望外の喜びですから」
 気にしないでくださいと、にこにこしている。花梨も、釣られてにこにこしながら、寒風の吹き荒ぶ土手道を歩く。まるで、自分の上にだけ春の日差しが降り注いでいるかのように、ぽかぽかと幸せだ。
 ただ、彰紋の抱えている、場違いな花束だけが気になる。
 花梨の視線に気づいて、彰紋は「ちょっとあちらで休みましょうか」と、川べりにぽつんと忘れられている、プラスチックのベンチを指さした。
 ハンカチの上に腰を下ろすと、目の前に、甘い香りの花々がふわっと差し出された。春を思わせる色彩の可愛らしい、とりどりの花をあしらったブーケ。一目見たときから、綺麗だと思っていた。でも、何で?
 戸惑う花梨に、相変わらずにこやかに彰紋は言った。
「今日は、ばれんたいんでーなのでしょう。大切なあなたに、これを受け取ってほしいんです。僕の気持ちですから」
 と言っても、今回は店主のご厚意で用立ててもらってしまいましたと、はにかみながら打ち明ける。出世払いでというお話なので、頑張らなくてはいけません。
 花梨は慌てた。今日は自分がプレゼントをし、相手を驚かせ、喜んでもらう日のはずだった。それなのに、どうして自分が花束を受け取り、狼狽し、真っ赤になっているんだろう?
 慌てた拍子に、ずっと握りしめていたチョコレートの包みが、土手の泥道に転がり落ちた。彰紋は、礼儀正しくそれを拾い上げ、ちょっと見つめてから、「僕に?」と尋ねた。
 花梨は頷いた。桜の花が散った、明るい黄色の包装紙に、泥がはねている。
「あ、あのね、彰紋くん――」
 汚れちゃったから、また作り直してくるよ。そう言おうとした瞬間、包みをしっかりと握りしめた彰紋の瞳から、ころりと涙が落ちた。
「嬉しいです。ありがとう」
 花梨は何も言えず、想いの詰まった花束越しに、頬を染めて涙をこぼす彰紋の顔を見つめている。彰紋が、春色の包みをひしと胸に押し抱く。
 少しばかり気の早い春の風が、ふんわりと二人を撫でて、川の向こうへとそよいでいった。

 

 

いつも、天然タラシ彰紋ばかり書いてしまいそうになるので、今回は意識的に、かわいい彰紋を書こうと頑張りました笑

 

 

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