ほーちゃんの趣味手帖

主にゲームについて語ります。二次創作あり。苦手な方はご注意ください

【天涯】共通√を母に遊んでもらった話

まず間違いなく、自力で完走できると思っていた。
高木作品の傾向は知っており、ヒロインの自己嫌悪や逃亡癖をスルーするスキルも鍛えられている。
何より、必ず起こるであろう理不尽な展開の数々を、笑い飛ばしながら乗りきることができると思っていた。わたしなら。

甘かったです。

 

結論から言うと、四月二十五日~八月十三日のイベントは、全て母に遊んでもらいました。
おまっ、できないことはマッマにやってもらうとかガキかよ! と言われたら、何も言い返せません。
が、母はとても楽しそうだった。
わたしより明らかに楽しんでいた。
そして、注意書き付きのプレイメモを残してくれました。

 

母に頼ることにした理由は、有り体に言えば体調が崩れはじめたからです。
プレイを始めてから、加速度的に体調が悪化した。
作品に感情移入しすぎてストレス過剰でダウンと言う、コントみたいな状態になった。
元々、自分は感情移入が激しいタイプで、ミュージカルを観に行ったら感動のあまり全身が麻痺してしまい、しばらく救護室のお世話になると言うこれまたコントみたいな失敗をやらかした過去がある。
とは言え、まさか乙女ゲーで。まさか楽しみにしていた作品で。
予想、できなかったんだよなぁ。

更に突っ込んで私事に触れると、自分は長いこと神経を患い、今は社会復帰目指してリハビリの真っ最中である。
真面目な話、こんなストレスフルなゲームを遊んでぶっ倒れている場合じゃない。
何やってんだ自分、と苦悩する日々が始まった。

すっぱりと遊ぶのを止められなかったのは、それでも魅力を感じていたからです。
高木作品って、心理学フェチ垂涎のゲームなんですよ。
それぞれの人柄や、きょうだい同士の共通点をじわじわと把握していく序盤は、わたしにとって最大のご馳走でした。
このわけがわからない弥島と言う家の人間模様を、自分の手で紐解いてみたい。
自分なりの言葉で語れるくらいに、彼らのことを知りたい。
そう思いました。

 

この作品の何が辛かったかと言うと、とにかく主人公が理不尽な目に遭うんですよね。
お家騒動に巻き込んでおきながら、主人公に謝罪も感謝もしない弥島家の人々。
無理だとわかっている仕事をやらせ、できないと叱責する弥島家の人々。
そんな彼らの我が儘を当たり前のことと受け止め、むしろ自分に責任があると思い込んで自己嫌悪に陥る主人公。
ただ罵倒されるとか、お弁当ガシャーンされるとか、そういう次元の話じゃなかった。
もっともっと理不尽で、利己的な人々に振り回される話でした。

とは言え、三男とのやりとりは笑えるし、次男もどうやら味方っぽい。
ひょっとしたら、何とか最後まで遊べるのでは……
そう希望を持ちはじめた矢先、あのイベントが起こりました。
そう、主人公の父の訪問です。

 

主人公の父については、ほとんど批判している方を見かけません。
昭和初期の父親なんてこんなもん、と言われれば、確かにその通りかもしれません。
けれど、わたしは許せなかった。
この人が、自分の娘が『弥島』のお家騒動に巻き込まれ、賭けに使われると知りながら、そのことを黙って帝都へと送り出したことが。
どうして私を行かせたの、と聞く主人公に、「お前がいつまでも店を継ぐなんて言っとるからだ」と父は答えます。
店を継ぐなんて無理だと納得させたかった、だから『弥島』へ行かせて現実を悟らせ、娘の志を折ろうとした。
最低だと思いました。
卑怯なやり口だと思いました。
自分の意のままに動かすためなら娘の心が傷ついても構わない、到底受け入れられない行動だと思いました。

それ、自分の店でやれよ。
自分の料理旅館を一週間くらい娘に任せて、その厳しさを突き付けてやれよ。

娘の伸びしろを見もせずに、甘いと突っぱねて将来を否定したのは、男尊女卑の思想が根深かった時代故でしょう。それはわかる。
けれど、だからと言ってそのために、娘の志が折れるように進んで仕向けたのはわからない。
出来ないと思わせたい仕事を、経験も教育も皆無の状態でわざとやらせて、出来ないと知らしめようとした。
そんな卑劣なことを実の父親がするなんて、思いたくなかった。

 

心をすっかり折られたわたしは、Vitaを放り出してしばらく泣きました。
そして、続きが知りたいから自分が遊んでもいいかと尋ねる母に、大人しく主人公のその後を任せました。

母は、GWを駆使してぐんぐん進めていき、本当に共通√の大半を終わらせてしまいました。
母が残してくれたプレイメモは、女中や小僧のシーンにはアンダーラインが引かれ、幸介やウメさんの叱責シーンにも要注意マークが書き込まれ、七月半ばの番付競争イベントには「ヒドイよ~~~危険!!」とコメントまで付いていると言う、まさに完璧な道標でした。
何と頼もしい、何と親切な、何とありがたい母親でしょう。
これでわたしのしばらくは、母の肩もみが日々の最優先事項となりました。

 

りん子と俊介は一切怖くなくなる、と母は言った。
幸介の態度も軟化する、と母は言った。
きくちゃんは元気になる、と母は言った。
ウメさんは味方になってくれる(厳しいけど)、と母は言った。

……よろしい、ならばそれを自分の目で確かめようじゃないか!!

と言うわけで、改めて母のプレイメモ片手に、四月二十五日からプレイ再開した次第です。
二十五日は、りん子さんと俊様倶楽部が一堂に会する恐怖のイベント。
なんですが、母の話を聞いた後だとちっとも怖くなかった。

それどころか、りん子さんが可愛く見えました。

大 勝 利 !!!

 

店主関連のイベントは、ざっくり飛ばしながら進めていくことになるかと思います。
公正なレビューができなくなることだけが気がかりですが、それを犠牲にして楽しく遊べるなら安いものです。
弥島家の人々を、自信を持って大好きと言えるようになる日も近いでしょう。

お母さん、ありがとう。

【天涯】四月までのキャラ雑感

天涯ニ舞ウ、粋ナ花

 

凄い、ゲームです。

 

感想を書くとなると、どうしても「人」に焦点を当てた方が楽なので、とりあえず、序盤も序盤、四月の段階でのキャラクターの印象をば。

一部、かなり辛口です。ご注意ください。
(嫌いってわけじゃないんです。どちらかと言うと、この印象がどう好転していくのかなって楽しみが強い)

 

 

主人公

Twitterだと「りっちゃん」で通していますが、本当は「はっちゃん」とタコみたいな名前を付けて遊んでいます。
特に意味はない。ここではデフォルト名で書いた方がわかりやすいでしょうか。
まぁ、とにもかくにも気の毒。本人の性格は、常識ぶっ飛んだ発言や配慮のない発言が目立つのでやや不安な子ですが、そういうの一切気にならなくなるくらい気の毒。他の奴らの常識と配慮がなさすぎて。
女中としてはハイパーウルトラ有能。9人の大所帯を難なく回す回す。
ですが、この物語の肝は「女店主」としての彼女の成長(と、言うことになっている)。
サポートを得られない状況で経験のない仕事とそれに伴う責任を背負い込まされ、それはそれはハイパー無能に見える。
今のところ、彼女に対して唯一「おいおい」と思っているのは、賭けに乗っちゃったことです。何故乗った。
そうしないと話が進まないのはわかるんだけど、何故乗った。

 

弥島 幸介

序盤の展開の理不尽が全200%だとすると、その内の50%がこの人。一応、主人公の許婚。
お家騒動に巻き込んだ側だと言う自覚がまるでなく、息をするように主人公を詰ってくる。
店を潰そうとしているのは自分なのに、主人公のミスに説教を叩きつける矛盾した人。いやほんとわかりません。
お陰でこっちは、画面外で「破談にしてぇぇぇ~~~……」と弱々しく懇願するしかない。
仕事が出来て頭の回転も速い、このタイプ弥島家結構居る印象。恐らく幸太の血。

 

弥島 裕介

次男、官僚。何を考えているのか読めないミスターX。
無愛想なだけで毒は吐かず、弥島家の中では比較的害のない人物。言ってしまえば優しいほう。
(この人が優しいほうと言うのが、今作の難易度の高さを物語っている)
視界に入った主人公は助けてくれる。視界に入っていない主人公は流れるようにこき使う。難解。

 

弥島 惣介

三男、学者。序盤はほとんど出てこない。エンカウントすると逃げ出す。ざっくりとした印象は、珍獣。
彼、面白いです。女性が近づくと吐くと言う謎体質の持ち主で、防衛本能のままに主人公にヒドいことを叫んだりするのはご愛嬌。
……まぁ、それを差し引いても失礼な発言はしてくるんですが、それすらも笑える不思議な存在。

 

弥島 恭介

四男、料理人。圧倒的良心。弥島家の善良な心を一手に引き受ける存在。
ひとえに彼の存在故に、このきょうだいのバランスどうなってんだって不思議でたまらない。
賭けの内容を聞いて「ひっでぇ話だな!」と反応した常識人。

 

弥島 俊介

五男、高校生。理不尽45%。コイツがたったの45%って弥島家おかしい。
発言は冷静で頭も悪くなく、荒れた家庭環境の中を器用にすいすい泳ぐ最年少。でもって意地悪。
限度を計って虐めてくるタイプで、どうやら純粋に主人公のことが嫌いらしい。彼女が一体何をしたと言うんだ。
明確に悪意を込めた一言をさり気なく投げて、早々と退場することが多い。

 

弥島 りん子

性格きっっつい長女(次男の下)。理不尽45%。コイツがたったの45%って(ry
高飛車で意地悪で幼稚、自分の問題は棚の上にぽーいして主人公を堂々と虐めてくる。いやはや大したもんです。

 

弥島 きく子

霞のような次女(四男の下)。味方になってくれそうな気がするけど、今は本当に霞のよう。

 

弥島 幸太

全ての元凶。幸介と並んで理不尽50%を担う存在。いやもうこれが自分勝手な人でして……
自分の店を守るために、赤の他人の主人公を利用しようとする。騙し討ちのような手ばかり使い、散々振り回してくれる。
態度が温厚なのに加えて病人なので、一見気の毒な感じがする。気のせいでした。
主人公に協力してほしいならきちんと頼めよ、家長なら横暴な家族を宥めるくらいしてよ、と何度思ったことか。
きょうだいたちの奔放ぶりを見るに、恐らくほとんど家庭を顧みてこなかったんじゃないかと思う。

 

弥島 ウメ

きょうだいの母。この人もなかなかにきっついが、エンカウント率が低いのが救い。理不尽10%。

 

 

序盤の、特に攻略対象の印象は、あえて悪くしているのかなと思います。高木さんの作品らしい。
ただ、今作は設定に無理があると言うか、主人公の置かれた立場が理不尽過ぎるので、心が元気なときでないとプレイは苦しい。

 

とりあえず、サイコロを振ったら「3」の目が出たので惣介から行きます。

【FEエコーズ】雑感、支援会話感想(一章)

ファイアーエムブレムEchoes、息抜きに楽しく遊んでいます。

 

やっぱり、自分は知らないキャラクターへの理解をじわじわと深めていく過程が好きだし、RPGが好きだなって実感した。シミュレーション要素の強い軍記物はやったことがなかったけど、地道に駒を進めていくのが思いの他ハマった。

アルムにそこまで共感できないのがネックと言えばネックだけど(お好きな方ごめんなさい)、こういったヒーロータイプの主人公に共感できたことなんて今まで一度もないので、予定調和だと思っている。
村人たちは大事に育てようって気になるし、女の子たちは皆かわいい。

何よりも、左さんのキャラデザが素晴らしい。アーシャのアトリエからのファンだけど、今回も遊んでいるだけで目が幸せです。

 

とりあえず、一章までで見られる支援会話はすべて見たはずなのでまとめ。
(一部の組み合わせは、まだ支援値が上がるみたいなので、粘れば次のランク行けるのかも。先が知りたいので進んじゃいますが)

 

アルムとクレア C
自分はセリカちゃん一筋なのに、「クレアのそういうところ好きだよ」とか言っちゃうのいけないと思いました。いけないと思いました(大事なことなので2回)
クレアさんは移動範囲が広いので、支援値を上げやすくてありがたい。

アルムとエフィ C
エフィちゃんのスタンスは前情報で大方知っていたので、むしろアルムのスルースキルの方が気になった。気づけよ。気づいてるんだとしたら、もっと状況を問題視しようぜ。

ルカとクレーベ B
「解放軍に入りたい。友達も一緒でいいですか」「大歓迎ですよ」のあっさり感が衝撃で、未だにルカというキャラクターが掴めない。支援会話を聞いてもそれは同じだった。
クレーベは、もっと大人(たいじん)であることを強調する演出が多くてもいいと思うんだけど、今のところアルムにリーダーの座を譲っただけの人という印象。頑張れ。

グレイとロビン C
この会話一体何だったんだろうって、今でも首を捻ってる。

グレイとクレア C
知らない間にフラグが立っていた。クレアさんのこの反応を見る限り、十分脈がありそうだと思う。

ロビンとクリフ B
クリフが任意加入なせいで、ストーリーイベントはグレイとロビンしか出てこない。よって、初めてこの会話を見たときの感想は、「あっこの二人ちゃんと喋るんだな」だった。

シルクとエフィ B
お互いに回復し合っているだけで、どんどん支援値が上がるのでありがたい二人(エフィはシスター)
これだけの男所帯で、同性がエフィだけってのはシルクさん過酷すぎると同情した。クレアさんと仲良くしたらいいんじゃないかな。

フォルスとパイソン B
パイソンの雰囲気が大好きなので、終始ニコニコしながら見ていた。

 

支援値を上げるという目標のお陰で、雑魚戦でもそこそこ頭使えて楽しい。一周終わったらハードモードでやり直してもいいなって思うくらいには気に入っている。マミーとかいう雑魚の皮を被った強敵に、エフィちゃんがワンパンされてお亡くなりになったのは衝撃だったけど(歯車使った)、死んだらおしまいってのも緊張感があって新鮮。

どうせなら、村人を全員傭兵にしてがっつり育成してみたいけど、今回はまぁいいかな。グレイだけネットのオススメに従って傭兵にしたので、やろうと思えば魔戦士ループもできる。初期の仲間で愛着もあるから、やってもいいかなってちょっとだけ思う(でも大変そう)

【遙か2】バレンタインSS~泰継編~

プロローグをお読みでない方は、先にこちら(【遙か2】バレンタインSS~花梨編~ - ほーちゃんの趣味手帖)をご覧ください。

 

 

 正直なところ、泰継の甘い言葉や、よくできた彼氏としての反応は、花梨の期待の外だった。だからこそ、大切な人に贈るんですと説明して、包みを手に押しつけたとき、泰継の顔が嬉しそうにほころんだのを見て、花梨の心はほとんど満たされた。
 ラッピングには頓着せずにさっさと開き、これは食べ物だなと確認して、口の中に入れて無表情で食む。花梨は、そわそわと落ち着かない気持ちでその様子を見守った。
 呑み込んで、しばらくした後、泰継は考え考え言った。
「神子の味がする」
 花梨は思わず、泰継の顔をまじまじと見つめた。泰継は照れもせず、その瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
「神子は食すものではない。しかし、それ以外によい表現がわからない」
 神子の温かさが、心に染みる味がする。
 泰継の言葉を、花梨はしっかりと胸に刻み込んだ。嬉しい。これ以上ない、バレンタインの贈り物をもらった。
「そう言ってもらえてよかったです」
 満ち足りた笑顔を浮かべる花梨に、泰継もふっと口元を和らげる。が、すぐにすいと眉を顰め、瞳を翳らせて言った。
「神子は、私の大切な人だ。だが、私は神子に何も用意しておらぬ」
「えっ、それはいいんですよ」
 そもそもこのイベントは女の子が、と言いかけたところで、花梨は急いで口をつぐんだ。
 もしかして、もしかすると。
 これってとっても、チャンスなのでは。
「それじゃ、あの、私のお願い一つだけ聞いてくれますか?」
 バレンタインのプレゼントとして。
「私のこと、花梨って呼んでみてほしいんです。名前で」
 泰継は、瞬きもせずに花梨を見つめた。
「わからぬ。それがどうして、神子への贈り物になる?」
 花梨は考えた。泰継の疑問は、いつも真っ直ぐで真っ当だ。だからこそ、その純粋な問いを、真正面から受け止められる答えを探さなくちゃいけない。
 眉根を寄せて考えている花梨を、泰継の両目がじっと見つめる。
 しばらくして、やっと花梨は、これだと思う答えを見つけた。
「特別な人に呼ばれる名前は、他よりちょっと特別なんです」
 私は、その特別が欲しいんです。
 泰継の白い面に、はっきりと理解の色が差した。
「なるほど。確かに、神子の口からこぼれる私の名は、私には常に特別だ」
 そういうことだな、花梨。
 淡々と呼ばれた名前が、花梨の耳に、甘やかに響いた。
 はい、泰継さん。
 互いの名前を分かち合い、もう一度視線を合わせた二人は、どちらからともなく、ふんわりと幸せな笑みをこぼした。

 

 

スペシャルサンクス、リズ先生。

 

 

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【遙か2】バレンタインSS~泉水編~ - ほーちゃんの趣味手帖

【遙か2】バレンタインSS~泉水編~

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「ありがとうございます。一生の宝物にいたします」
 薄墨色の包みに頬を寄せ、一言一言噛みしめるようにして、泉水は言った。
 花梨は慌てた。
「あのですね、食べ物なので、なるべく早く食べちゃってくださいね」
 そういたしますと神妙に頷き、再び、桜色に染まった頬を包みに寄せる。とりあえず、喜んでもらえたみたいかな。ざわざわしていた花梨の心は、安堵と同時に落ち着いて、いつもの和やかな時間が戻ってきた。
「今日は、これからどうしましょう」
「花梨さんのお好きな場所にお供いたします」
 間髪を入れない泉水の答えに、花梨は照れ笑いした。
「いつもそれなんだもの。そろそろ、好きな場所が尽きてきちゃいました」
 たまには、泉水さんの好きな場所に行きたいな。上目遣いに花梨が言うと、泉水はまた頬を染め、それからおずおずと切り出した。
「その、できることなら――こちらの世界の管楽を、一度、きちんと聴いてみとうございます」
 途端に、花梨の心は、ぱあっと興奮で高揚した。
 真夜中の電話。毎週のデート。こちらの世界に来てからの二人の関係は、花梨が望み、泉水がそれに従うという形で成り立ってきた。慣れない働き口でコツコツと貯めた金を、すべて花梨との時間に散らし、そのために自分の生活が立ち行かなくなったとしても、常に幸福そうな顔をしている恋人。
 その彼が、私に、わがままを言っている!
 大急ぎで、花梨は今月のお小遣いの残りを計算した。ちゃんとしたコンサートなんて、今まで一度も行ったことはないけれど、きっとお金がかかるに違いない。今から地道に節約したとして、泉水さんを連れて行けるのはいつになるだろう?
 いや、それよりも早いのはCDだ。レンタルという手もあるけど、ここはやっぱりプレゼントがいいな。あ、でも泉水さんの家にはオーディオがない――
 私の部屋にはある!
 花梨は、手を打ち鳴らしたい気持ちになった。
「あの、花梨さん、そんなに難しくお考えにならないでください。単なる私のわがままですから、どうか」
「泉水さん、今からCDショップに行きましょう! バレンタインデートです」
「は、はい!」
 勢いに押されて答えた泉水の手を、花梨が掴んで歩き出す。あっと小さく泉水が声を上げても、気づかない。
 大事な人の手をしっかりと握りしめて、恋人たちで華やぐ商店街をずんずん進んで行く花梨は、このとき、自分のために尽くす泉水の幸福を、初めて理解したのだった。

 

 

バレンタインネタが、約五行で終わった衝撃。

ちょっと独りよがり花梨ちゃんにしすぎたかな……と反省しつつ、どうしてもお部屋デートしたい花梨とか可愛すぎると思います(自分で言う)

 

 

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 校門を出て、花梨は大きく息を吸い込んだ。
(今日は、翡翠さんに会えますように)
 念を入れて願掛けし、「よしっ」と気合を入れて歩き出す。花梨の経験則では、翡翠に会うには、とにかく町をぶらりと歩くのに限る。そうすれば、翡翠はぶらりと現れる。
 たっぷりとハートをあしらった、真紅と焦げ茶のフラッグがはためく商店街は、バレンタイン当日である今日も、浮き足立つ女の子たちで華やいでいた。
翡翠さん、どこにいるのかなぁ)
 そもそも、彼が今どこに住んでいるのか、花梨は知らない。複数の住処を転々としているらしく、どちらにせよ、花梨を招くつもりはないと言う。一度だけ、行ってみたいとねだったことがあったのだが、
「まだ早いよ、花梨」
 余裕の笑みで、あっさりとはぐらかされてしまった。悔しいような気もするけれど、こういうときの翡翠は何が何でも口を割らないと、これも経験則で知っている。
(私、ちゃんと翡翠さんの特別になれているんだろうか)
 一瞬、頭を不安が過ぎる。だからこそ、チョコレートくらいはちゃんと渡したい。
 気持ちを改め、商店街をもう一往復しようとしたとき、ひゅっと突然腕を掴まれた。声を上げようとした瞬間、今度は、冷たい大きな手ががばりと口に覆いかぶさる。その匂いをかいで、花梨は体の力を抜いた。よかった、ちゃんと見つけてくれた。
「不用心だね、花梨。こんなにあっさり、男に攫われるようではいけないよ」
「私、翡翠さん以外には攫われません」
 そう言い返すと、はははは、さすがは私の姫君だと豪快に笑う。解放されて、緊張した面持ちで向き直った花梨を見て、おや、と翡翠は眉を上げた。
「同じ場所をうろうろしているから、私に用事があるのかと思ったが、当たりかな」
 歩きながら話そうか、と促され、大人しく翡翠の隣に並ぶ。本当は、もっと落ち着ける場所で会いたかったけれど、翡翠は何故か、人気のない場所を避けている節がある。花梨と二人きりになるのを避けている――ようにも見えるが、そうは思いたくないというのが花梨の本音だ。
「あのですね、今日はこっちの世界では特別な日なんです」
「ふうん」
「バレンタインって言って、えっと、恋人同士のお祭りって言うか」
「恋人同士、ね」
「女の子が、好きな男の人にチョコレートをあげるんです。あの、チョコって言うのは」
「花梨」
 名前を呼ばれて、口をつぐんだ。ちらりと隣を見上げると、いつもうっすらと笑みを含んでいる翡翠の瞳が、このときだけは表情を消して、真っ直ぐ前を見据えている。思わず見惚れた花梨の手に、ひんやりとした固い手が重なったかと思うと、小さな紙片を握らせて離れていった。
 花梨は、慌てて手の中に目を落とした。見事な手筋で書かれた、漢字と数字の羅列。
「私の住所だ。何かあったら、訪ねてきなさい」
 どさっと無様な音を立てて、通学鞄が転がった。素早くそれを拾い上げた翡翠は、硬直したままの花梨に、いつもの皮肉めいた、悪戯っぽい声で言った。
「さぁ、私に渡したいものがあったんだろう、可愛い人?」
 君の気持ちを、私に見せてくれまいか。
 花梨は、さっと通学鞄を奪い取り、ガサゴソと中をまさぐって、入念にラッピングしたチョコレートの包みを取り出した。
 心臓がばくばくと、うるさいくらいに鳴っていた。

 

 

翡翠さんの危ない魅力を、花梨ちゃんの健全な魅力と、どう折り合いをつけて書くか……

難しかったです。ちゃんと恋愛ED後になってますかね??

 

 

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 どうしてもこの日に会いたいという花梨のわがままを、幸鷹は快く受け入れてくれた。
「構いませんよ。こちらでは、特別な日でしたね」
 花梨は、ほっと安堵のため息を吐いた。
 もう随分と長い間、電話越しにしか声を聞いていない。ずっと一緒にいられると思っていた彼は、帰ってきた途端、歓喜に湧く家族たちと、恰好のネタに奮い立つマスコミに囲まれて、あっという間に遠くへ行ってしまった。
「いろいろと問題を片付けたら、二人で今後のことをゆっくりご相談しましょう」
 守れない約束をする人ではないから、信じて待っていればいいとは思う。でも、会えないのは辛くて、寂しくて、やっぱり不安だ。毎日のように、そわそわと着信履歴を確認しては、肩を落とすのにも疲れてしまう。
 今日は、今までの分を取り戻そう。できることなら、幸鷹さんにいっぱい甘えたい。
 頭の中が、楽しい想像でぱんぱんに膨らむ。授業中についついにやけて、先生にぴしりと注意されても、花梨の幸せは曇ることがなかった。
 約束の時間は、午後の五時(電車を逃した場合、到着するのは三分を過ぎてしまいますと、幸鷹は丁寧に断った)。待ち合わせ場所は、駅前の時計塔(北口を出てすぐ目に入る位置に立っていましょうと、幸鷹は丁寧に指定した)。街灯の点る広場にダッシュで駆け込むと、ぱりっとしたスーツの上からダークグレーのコートを羽織り、腕時計を気にしている懐かしい人影が見えた。
「幸鷹さん!」
 顔を上げた幸鷹は、花梨の姿を認め、眩しそうに目を細めた。が、すぐに真顔に戻る。
「花梨さん、ちゃんと遅れるときは連絡してください。心配しましたよ」
 花梨も真顔でごめんなさいと謝ってから、えへへと頬を緩めた。
 幸鷹さんは、やっぱりかっこいい。
 こんな素敵な人の彼女になって、チョコレートを贈れるなんて幸せだ。
「なかなか、時間が取れなくてすみません。八年間も失踪していたのですから、雑事が降りかかることは覚悟していたつもりでしたが、まさかこれほどとは」
「やっぱり、忙しいままですか」
「今年度いっぱいは、恐らく状況は変わらないでしょうね。これからの私の身の振り方も決めなければいけませんし」
 すみません、寂しい思いをさせていますねと謝られ、花梨は慌てて首を横に振った。
「疲れてるんですもの、無理しないでください。そうだ、私、肩揉みましょうか」
 えっ、と幸鷹が固まった。そうしましょうそうしましょう、と花梨は上機嫌で、駅周辺の地図を広げる。そうと決まったら、しっかりと腰を落ち着けられる場所で、幸鷹さんに心ゆくまで疲れを癒してもらいたい。
「レストラン『ラビリンス』、喫茶『姫胡桃』――わ、ここ美味しそう。どこに行きましょう。何が食べたいですか?」
 幸鷹は答えない。朱を刷いたような顔色になって、落ち着かない様子で、しきりに眼鏡を拭いている。
 今日は、今までの分を取り戻そう。幸鷹さんに、いっぱい甘えてもらうんだ!
 うきうきと食事処を吟味する花梨の頭からは、いつしか、この日までの寂しさも、拗ねたような気持ちも、すっかりと消えていた。

 

 

ここまで書いて気づいたのは、チョコレートを渡す段まで行っていないキャラがこれで二人目だと言うこと。これは果たして、バレンタインSSと呼べるのか……

ちょっと花梨ちゃんを突っ走らせすぎちゃったかもしれない、と反省中。

ふざけた小ネタを仕込んだことも、反省中。

 

 

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